相談B:高田美紀 47歳、家族:夫(50歳)、実母(74歳)、長女(14歳)。4年制大学(文学部)卒業後、食品メーカーに勤務し25年目。入社以来、工場の庶務や総務業務、営業部の庶務などをしてきた。子どもも大きくなったので、これからは思い切り仕事をしようと思い、昇格試験を受け、昨年10月から経理部で頑張っているが、なかなか思うように成果が出せない。そんな矢先に母が入院してしまった。今後どうしたらよいのか相談したい。
今回の検定では、5つのケースのうちの3つまでが、新卒で入社した企業に長く勤めている中高年齢者です。このケースもそうです。ただし、相談者が女性だという点が他の2つの事例とは異なります。女性の働く環境は、男性に比べて大きな変化に見舞われてきました。
この相談者は入社した当初は庶務でしたが、働き続けるうちに男女雇用機会均等法の改正が相次ぎ、それに伴って、女性の社内における役割や権限が変化してきたと考えられます。ただし、変化の程度は企業によって大きな差があるほか、現代においても管理職に占める女性の比率は決して高くなってはいません。
しかし、入社当初より将来の幹部候補と見なされて段階的に育成されてきた男性社員とは異なり、中高年齢者の女性社員の場合は、若い時にそうした育成をされずに法律の改正に伴って急きょ職務の重責が変化するという経験に遭遇した人もいます。そうした女性社員にはモデルとなる先輩がおらず、自分が時代を切り開くというモチベーションを持つ女性社員がいる反面、ストレスを感じている女性社員もいるようです。
相談者C:中野 浩 46 歳、家族:妻(44歳)、長男(18歳)、長女(14歳)。自動車整備士の専門学校卒業後、自動車ディーラーで自動車整備士として勤務し26年目。車をいじるのが好きで自動車整備士になったが、最近、技術の進歩についていけなくなってきていること、年齢のせいか細かい作業がしづらくなったり、体力の低下を感じていることなどから、このまま自動車整備士として仕事を続けていけるのか不安である。今後どうしていけばよいのか相談したい。
自動車整備の現場は自動車整備士のみで業務が行われるわけではなく、無資格の「整備工」と呼ばれる作業者もまた、自動車整備士の指導のもとで自動車整備の業務を担っています。
自動車整備士は、1951年に制定された技能検定に合格することで取得できる国家資格です。2006年に1級の技能検定が初めて実施されるまでは、自動車整備士は2級取得者が半世紀以上にわたって自動車整備の専門家としての中心的な立場でした。このことから、新たに導入された1級整備士を取得する必要性についてまだ充分な認識が得られず、ベテランの2級整備士には1級取得に消極的な姿勢も見られるとも言われています。ちなみに1級は「整備技術コンサルタント」と位置づけられ、高度な整備技術力を有するアドバイザーとしての能力が認められるものです。
つまりこの相談者は、3級か2級かは分かりませんが、技能検定という国家資格を取得して長年働いてきた専門家であることは間違いありません。整備工を指導してきた人材だという可能性もあります。ただし、1級整備士という新たな制度の導入に対して、46歳である今からそれを目指すかどうか、これから進むべき道について大いに迷っている可能性があるとも考えられます。
また、「体力の低下」という表現になっていますが、46歳といえば一般的にそれほど加齢が進む年齢ではありません。しかし個人差があって、人によっては何らかの持病を抱えていることもあります。または、健康診断で何らかの異変が見つかる可能性もあります。提示されたケースの短いメモだけでは情報が充分とは言えません。あるいは、メモには書かれていませんが、職場内の人間関係や家庭での問題など、気になることが他にもあるかも知れません。ロープレの中でそれらが語られることもありますが、その場合はもちろん、それを受け止めて対応をする必要があります。
さらに考えられるのは、価値観の変化によって「キャリア転換」(トランジション)を意識し始めたのかも知れません。
相談者D:吉沢 由香 34歳、家族:長男(3歳)、実母(65歳)。4年制大学(社会学部)卒業後、製菓メーカーに8年勤務し、結婚退職後は専業主婦。離婚後、私立大学の事務部門で非常勤職員として勤務し、2年目。現在の仕事はあと半年で契約が切れるので、次の仕事を探している。今後の生活のためには、残業があっても収入の多い正社員を目指すべきか、それとも子どもと接する時間が多く取れる非正規の仕事を探すべきか、再就職にあたってどう仕事を探せばよいのか迷っているので相談したい。
計算上ですが相談者は、2001年より2009年まで製菓メーカーに勤務し、30歳で結婚退職。そして翌年、31歳で長男が生まれ、32歳か33歳で離婚という目まぐるしい人生を歩んでいます。そして現在、幼い長男を育てながらも、この先の人生をしっかり考えようとしています。
パターン化された支援はもちろん不可能であり、相談者の置かれた環境や気持ちについて理解するために、聴いておかなければいけないことがたくさんありそうです。
ちなみに離婚した父親から受け取る養育費は、子ども1人につき月額2〜4万円が多いようです。ただし、厚生労働省の調べでは、離婚した父親からの養育費の受給状況は、2006年時点で19.0%に過ぎません。
ただ、ケースのメモによると、相談者は「今後の生活のためには、残業があっても収入の多い正社員を目指すべきか、それとも子どもと接する時間が多く取れる非正規の仕事を探すべきか」という点で迷っており、現在の経済状況や子育ての負担についてはまだ何も語っていません。当日の面談において、相談者がその観点から語り始めたとしても、今後の働き方・生き方を決める上で、面談のどこかの時点で養育費のことを確認しておく必要があるかも知れません。
また母子世帯の母親の帰宅時間は、厚生労働省の調査で、臨時・パートは午後6時以前が54.6%と最も多く、常用雇用者の場合には午後6時〜8時が51.2%と最も多くなっています(平成18年度全国母子世帯等調査結果報告)。
|