リーマンショック以降、「内にはデフレ・外に円高」というわが国の状況が、不況を深刻なものにしています。
この間の動きを経済産業省が発表している統計から見ると、わが国の鉱工業における出荷の推移は、2005年を100として、昨年2月に72.0という底を示した後、12月に90.5、本年3月で96.3と、緩やかに回復を見せています。とりわけ、電気機械・電子部品・精密機械・輸送機械などは好調です。
しかし、全体的に見ると、わが国は不況脱出に時間が掛かっています。
「輸出向け」「国内向け」に分けた内訳を見ると、「輸出向け」は昨年12月に100を越えてその後、102.6〜112.6の間で推移しています。他方、「国内向け」は、本年1月に90を越えて90台前半で推移しています。
輸出にとって不利な円高が続く中ですが、総体的には輸出が日本経済の牽引役を果たしていると言えます。また、中国や韓国の製造業の企業は、自国の通貨安を追い風に、世界の市場になだれ込んでいます。
不況からの脱出に時間が掛かっているあいだに、日本を取り巻く状況は大きく変わりつつあります。最近の海外の出来事を拾ってみましょう。
●昨年6月
中国・天津市郊外で世界最先端の環境都市を目指す「天津エコシティー(中新天津生態城)」プロジェクトがスタート。発足当日より、中国内外の企業が開発担当者にアプローチを開始しました。ところが、日本企業が担当者に接触したのは12月です。
●昨年9月
原口総務大臣が南米を訪問。南米の5カ国(現在7カ国)が、テレビ放送の地上デジタル化において「日本方式」の規格を採用することを決めましたが、原口大臣はトップセールスの位置付けで訪問していました。「日本方式」の採用は日本の産業界にとってプラスになるという狙いがあったでしょうが、実際には、大臣の訪問から1ヵ月で、南米では韓国製の「日本方式」テレビが市場を席巻してしまいました。日本のメーカーが南米での地デジビジネス拡大に二の足を踏んでいる間にです。ちなみにデジタルテレビを「日本方式」にするには何も一からの開発をしなければいけないわけではなく、ソフトウェアだけの問題です。
●昨年7月
この年の1月に発足した「国際再生可能エネルギー機関」の本部が、アラブ首長国連邦のアブダビに決定。アブダビは潤沢なオイルマネーを環境エネルギー産業の育成に注ぎ込んでいて、2006年から世界最大規模の環境都市「マスダールシティー」の建設に着手しています。2016年に完成予定のこのプロジェクトは、環境ビジネスの壮大なノウハウづくりと実績づくりの場です。マスダールシティー建設には、世界中の環境メーカーから選りすぐられた企業が参入しています。ゼネラル・エレクトリック社をはじめ、欧米と中国の企業が参入していますが、日本企業はわずか2社しかこのプロジェストに入っていません。まだ建設途中のためこれからの参入も考えられますが、仕様が固まった後からの受注は収益性が低いビジネスにならざるを得ません。
●本年4月
リチウムイオン電池世界第3位(携帯電話用では世界1位)の中国企業BYDが、自動車用金型世界最大手で世界中の自動車メーカーと取引する株式会社オギワラの館林工場を買収。BYDは、中国国内で販売台数トップの車種を有しますが、2年前に世界初の量産型プラグインハイブリッド車を発売し、昨年には、独フォルクスワーゲンが電気自動車分野で同社と戦略提携しました。中国は2020年までに全自動車の80%を電気化する計画を持っています。また、現在世界をリードする太陽電池生産以外に、風力・小型水力・風力などの分野でも世界をリードしつつあります。
●本年5月
韓国が、「空飛ぶ自動車」の開発に官民挙げて着手することを表明しました。
●本年5月
日本ではipadが発売され話題になっていますが、中国の電子ブックでシェアの90%を占める中国企業「漢王科技」は、日本を含めた漢字圏の20億人の潜在顧客を狙って躍進を続けています。同社の電子ブックは、著作権にも配慮されていて、出版社・新聞社の支持を広く集めています。もともと同社は、「キーボードは漢字入力には馴染まない」と考えて、早くから手書き入力方式の開発を始めました。
ものづくりの品質や環境技術に日本は優れていると思い込みながら不況にじっと耐えている間に、世界はダイナミックに動いています。そして、すでに、世界から遅れが出始めた分野もあります。
近年の日本は、下請けの御用聞き的な製造スタイルが広がっています。今はそれが輸出向けの伸びを支えています。しかし、将来的に見ると、日本の製造業がこれから強めていかなければいけないのは、「企画力」「提案力」「コミュニケーション力」です。
世界に対して、日本の製造業が目指す将来像を、「具体的な提案と実行」で示していかなければ世界をリードすることはできません。日本が得意とする「真面目にものをつくる」というだけでは、世界での競争にはついてゆけない時代のようです。
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